【心を測る手法】脳波(1/2)
脳波を測る方法に関して、解説します!
そもそもの”原理”
適当に頭皮上に電極を貼り付けて、電気信号が計測できたとする。例えば、おでこから〇〇μV!みたいに。
でもそれが”脳波電位”かと言うとそうでもない。
人間には脳波信号以外にも、多くの電気が流れているので、それが純粋に脳波電位なのかは分からない。なので、二箇所で計測した電位の差分をとって、その大きさを比較することになる。
その差分を取る方法は、大きく2つ。
1)ほとんどこれ。”単極導出法”
一箇所、ベースとなる電極を決めて、それ以外の電極との差分を見る方法。
ベースとなる電極は、脳波が混ざってしまうと嫌なので、頭蓋骨に接していないところから取ることが多い。
ほとんど(と言うか私が知る限り全て)の場合、ベースは”耳たぶ”から取る。
おでこの電極の電位 ー 耳たぶの電極(ベース)の電位 = おでこの脳波信号
頭頂の電極の電位 ー 耳たぶの電極(ベース)の電位 = 頭頂の脳波信号
となる。
2)レアケース。”双極導出法”
ベースとなる電極を決めない方法で、差分は任意の二箇所の電位差となる。つまり、こことあそこ、どちらが反応しているか、を比較して見るときに使う。
おでこの電極の電位 ー 頭頂の電極の電位 → おでこの反応の方が大きい
頭頂の電極の電位 ー 後頭の電極の電位 → 後頭の反応の方が大きい
となる。あまり使用されない理由は、1)の方法でも、擬似的に電極同士の大きさの比較はできてしまうから。(例えば先の1の例なら、おでこと頭頂のどちらの反応が大きいか比べれば分かる)
侵襲か非侵襲か
脳波を計測するには頭皮上に電極を貼り付ける(接触させる)必要があるのだけれど、
頭皮は脳から距離があるので(過去記事参照のこと)、
”どこの部位からの信号なのか”特定しにくいし、
頭皮上の皮脂や、頭皮と電極の接触のずれなどで、邪魔なノイズも発生しやすい。
この問題を電極の形状や装着方法でどうにかしてみようという考え方。
1)信号は超クリア!でも倫理的に厳しめ!”侵襲型”
「なら、頭蓋骨に穴を開けて、脳に直接電極をぶっさせばいいじゃん!」という、超効果的だけどクレイジーな発想が、侵襲型。
脳の特定の部位に細い電極を挿入して、そこからの電気信号を測る。部位特定も当然できるし、ノイズも発生しない。
超効率的だけれど、外科手術が必要(想像できるよね)。一般的な脳波を使用した実験で、この方法が使われることは、まずない。お金もかかるし、被験者の負担もある。
この方法を取るのは、体が動かなくなった人が脳波信号で、電子機器を操作する、などの”必要に迫られた”シーンがある場合。
2)人に優しい!ほとんどこれ!”非侵襲型”
なので結局、部位特定が出来ないことやノイズの問題はあるけれど、人の安全性、コストや簡便性を考えて、一般的に利用されているのがこの型。
電極を頭皮上に貼り付けるもしくは装着させて、そこからの電圧を計測する。
基本、脳波計といえばこれ。
なので次回紹介する方法も、全てこの非侵襲型の脳波計に関する内容です。
続きは次回、脳波を測る方法(2/2)で。
そもそも脳波とは?(2/2)
そもそも脳波とは何か?(2/2)です。
少しややこしい話ですが、脳波とは?の根っこの部分になりますので、ぜひ理解のために読んでみてください。
脳波=シナプス後電位
脳波(脳電位)は、”シナプス後電位”と呼ばれる電気信号の集積体。
なんでもいいけれど、外からの刺激があると、ピっ!と脳電位が生じる。そしてピっ!と脳電位が生じると、その周りのシナプスがわわっ!と反応して、みんなでビビビっ!と脳電位を生じさせる。
これが、シナプス後電位と言われるものです。
小池都知事もよく言っていた”ファーストペンギン”についていく”後ろのペンギンたち”のイメージですね。
基本、脳波計で計測する脳波は、このシナプス後電位の集積です。
最初のピっ!と言う脳電位は、”活動電位”と呼ばれるものなのだけれど、これは刹那的すぎて、機器で計測することはできない。
ファーストペンギンは取得できないのです(ファーストペンギンが目立つ世の中とは違いますね)。
脳のどの部位が反応しているか、脳波からわかる?
脳は、その部位によって担当している機能が異なります。後頭部は視覚情報を処理していたり、前頭部は思考を司っていたり、右側頭部は言語処理を行なっていたり、などなど。
数々の過去の研究から、どこがどんな機能なのか、”脳の地図”はもう概ね明らかになってきていて、意外に細かい区分けがされています。
だから、例えば前頭部で脳波が反応していたから「これは思考に関する信号だ!」と、脳波を測定する部位から、何かの意味を見ることはできそうな気がする。
でも、これが意外と難しい。
脳から直接測れれば…
脳波は、脳→頭蓋骨→頭皮を経由して計測される。
(もっと厳密に言うと、脳→髄液→クモ膜→硬膜→頭蓋骨→筋肉→頭皮を経由)
マトリックスみたいに、脳に直接電極を刺して計測しているわけではない。
だから、例え前頭部で強い信号が出てきたとしても、それは”(おそらく)脳の前の方から出てきた信号の集積”であって、厳密には”前頭部からの信号”そのものではない可能性がある。
ならどうする?センシング手法によるアプローチ
その解決のために、とても多い数の電極を持った脳波計を使ったりする。
頭皮上に、細かい間隔でとてもたくさんの電極を配置して計測すれば、それぞれの電極の信号の強さを細かい間隔で比べることができる。そうすると、”ここからの信号が強い”と細かく見ることができ、”前頭部からの信号”も特定できる可能性が高い。
部位特定が難しい理由2点
でもそれでも、脳の中の本当の”信号源”を捉えるのは難しい。
大きく理由は2つ。
1つ目:どれくらい”深いところからきたか”が分からない。
計測した脳波信号はあくまで”頭皮上での信号”なので、脳の中のどれだけ深いところからきたのかは分からない。なので、それこそ脳の真ん中あたりにある部位の反応を見るのは、脳波では難しい可能性が高い。
2つ目:信号を計測した頭皮の真下が信号源だとは限らない。
脳はご存知の通りしわしわで、溝がある。たくさんあるこの溝のせいで、脳から出てきた信号が真上(?)には出ていかない。頭皮からナナメに出て行ったりする。なので、”ここから大きな脳波が計測されました!”と言っても、本当の信号源はその横だったりするかもしれない。
少し短めですが、ここまで。
次回は脳波を計測する手法に関して説明します!
そもそも脳波とは?(1/2)
脳波とは何か?(1/2)
脳波とは、脳から出ている波形状の電気信号のことです。
人間は大きな電化製品で、何かの外からの刺激に反応したり、体を操作したりするために、脳が司令塔となって各所に電気信号を常に送っています。
筋肉を電気で動かすとかいうのは、なんとなくどこかで聞いたことがあるのでは。
その電気信号は、皮膚・頭蓋骨を経由して脳から漏れ出ている。それを計測しているのが、”脳波”です。
その脳波の基本を、分かりやすく解説します。
脳波は常に出ている
脳が何も指令を出していない=何も体に何も信号を送っていない状態というのは生きている以上、ありえないです。いくらぼーっとしていても、呼吸はしているし思考もしている、内臓も動いている。息を止めても、「息を止める」のに筋肉使っているしね。
それがないということはつまり、生体活動をしていない=死亡しているということになる。いわゆる脳死状態ということ。今はほとんどの国で脳死=死亡とされている(臓器移植とかはこの脳死判定がされると行われますね)。
植物状態は脳死していない状態の為、脳波が出ている。周りの人には全く活動をしていないように見えても、本人の中では何か感じていたり、思考していたり、もしかしたらするのかもしれない。
単位はV(ボルト)
脳波というから紛らわしいのだけれど、電気信号で、単位はV(ボルト)です。
単位がわかると、身近なものに感じませんか?私が最初に単位を聞いた時には「あっなんか分かりそうかも」と、とっても身近な存在に感じました。
取得する方法
取得する方法はとても簡単で、頭に電極を貼り付ければOKです。
ただ髪の毛がジャマだったり、電極をつける場所によっては脳波が出にくい場所だったりで、計測の時に抑えるべき基本ルールみたいなものはあります。この辺りは別記事で紹介しているので、よかったら見てみてください。
とっても小さい電気信号
だいたい数μV(マイクロボルト)〜数十μVくらいです。どのくらい小さいかというと、静電気の10億分の1くらい(静電気は3000Vくらいだそうですね) 。
なので周辺のノイズには相当気を使う必要がある。
計測の際に、脳波だと思っていたら違う信号だった(筋肉を動かすときの電気信号だったり、脳波計の中の電磁ノイズだったり)、なんていう状況は結構、本当に多くあります。
波形の信号です
音波なんかと同じように、脳波も波形信号です。
様々な波形が重なり合った状態で出てきて、またある程度規則性がある波形をしています。
なので、周波数分析が可能です。〇〇Hzとか(2Hzは1秒間に2回、50Hzは50回繰り返す波形ですね)、聞いたことありませんか?
例えば、低周波(例えば7Hz〜11Hz。俗に言う”α波”)が強ければ、リラックスしている、高周波(例えば15Hz〜25Hz。こちらは”β波”)ならストレスを感じている、などなど、周波数によって違う意味づけをすることができます。
時間分解能が高い
電気なので、速いです。ドン!ときた刺激に対する反応が、その直後にバン!と脳波に現れるイメージです。笑
例えば、ボラー映画に、「ギャギャン!」みたいに唐突に音が大きくなってびっくりさせるシーン、ありますよね?その時、心臓がドキドキしますよね。その心臓のドキドキ(心拍)を計測すると、その人は「驚いた」ことが本人に聞かなくても分かりますよね。
この時の心臓のドキドキは、①脳がそのシーンをみて、怖い!とストレスを感じて、②それが心筋に影響を与える、流れで発生したものですね。脳波は脳活動を捉えているので、①を見ています。心拍は②を見ているので、脳波の方が時間的に早く反応が出そうな気がしますよね。
また脳活動を測る方法の中でも、脳波計測は反応を早く捉えられているとされています。脳活動を測る方法は脳波以外にも、脳血流だったり、fMRIだったりと色々な方法があります。
それらは、脳の指令に基づいて変化する脳の中の血流量や酸素量の動きを捉えていたりするのですが、脳波はその指令自体(電気信号)を計測しているので、早いとされています。なんとなくイメージできそうですよね。
脳活動を測る他の方法に関しては、また別の記事で紹介します。
測る位置は大切
何をしている時に、脳のどの部位が活性化するかは、先人たちの研究結果からほとんど分かっています。前頭(おでこのあたり)から強い脳波信号が出ていたら、その人は”思考している”可能性が高い。などなど、様々な種類があります。
なので、頭のどの辺りで計測するかによってはその信号の意味が違ってくる可能性があり、計測する場所は大事になります。
次回はもう少し深く、脳波とは何か?整理してみます。