感情センシング&ビジネスデザイン

人の”こころ”を測るセンシング手法の紹介と、それらのビジネス活用の可能性について考えます。

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そもそも”集中”って何?

個人的にもっとも生理指標計測の必要性を感じる要素”集中”に関してまとめます。

かなり個人的な意見も書いてありますので、ご容赦くださいませ。

 

そもそも”集中”って何?

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◾️色々研究されているようです

学術論文などでは、

「ある限定された対象に対して独占的に、また持続的に注意を傾注すること」

と定義されているよう。

傾注=気が散らない状態であること、つまり他の刺激(仕事だとメール通知とか)がきたとしても心を乱されない状態であることのよう。

改めて言語化すると難しく聞こえるけれど、要は「気が散らないで一つのことに注意を向けられている状態」と言えるだろう。集中に関しては多くの研究論文があるけれど、その中での集中の定義は概ね上記のようなもので、僕らが「集中とはなに?」と聞かれた時に答えそうな内容と概ね違いはないみたい。

 

◾️個人的に一番しっくりきている解釈は…

ちょっと話をややこしく感じさせるのは、その集中の対象になる内容の難易度によっては、それほどの力を必要としなかったり(例えば3+4=?みたいな簡単な計算問題だったり)、あるいは使用する力が違ったりする場合(何かを纏める力だったり、アイディアをうむ力だったり、記憶力が求められたり)があること。

個人的にはある論文で定義されていた、

「集中状態=実行している仕事に必要な感覚のみを適切に働かせていること」

が集中の説明としては一番しっくりきている。

なのでタスクの種類によっては集中状態を推定する為の手法やアルゴリズムは、厳密には切り替えていく必要があるように思う。

また集中状態に関する研究論文では、「集中は作業状態と短期休憩を繰り返し、長期休憩に行かない状態のこと」と休憩も混ぜて考えたりとか、集中の”深さ”を考慮したような「集中モデル」はたくさん研究されているのだけれど、結構キリがない&検証のしようがないのでは?と個人的には思っているので、上記の「実行している仕事に必要な感覚のみを適切に働かせていること」の解釈で良きかな、と思っています。

 

 

集中ってどんな状態?

 

◾️本人が「集中していた」といえばそれが集中状態?

まず当然のように口頭による確認。「集中していましたか?」と聞く方法。

ただこれは、

・そもそも集中がなんなのかの理解に個人差がある

・集中度合いと作業進捗に必ずしも相関があるわけではない

などの理由で、必ずしも正確ではないとされている。

ただ、様々な論文では基本、口頭による集中度合いの評価は信用しているよう。確かに集中の理解には個人差があるけれど、大人なら経験値としてなんとなくわかるよね。

作業進捗や成績と集中度合いに相関がないケースがあるのも、それは認めざるを得ないと思う。得手不得手もありみんながみんな効率よく作業をこなせるわけではないので、まずは一生懸命やっていること=集中で良いのではと思う。

とはいえ、口頭での確認指標は個人差があるのは上記の通り間違いないので、生理指標のように定量的な指標での可視化が求められるよね。

 

◾️ゾーン?瞑想?

よく集中状態=ゾーン状態と聞きますよね。

でもこれは本当なのかな?あなたのゾーンと私のゾーンは同じことを言っているのだろうか?共有するすべがないからわからないし、そうするとそもそもゾーンなるものが本当に存在するのかもわからない。個人的に「あの時ゾーンに入ったな」と言える経験はないなぁ。

脳波などの生理指標でゾーン状態が計測できる、などと耳にするけれど、個人的にはとても懐疑的。そもそも上述の通り「今ゾーンに入った!」など誰がわかるのだとも思うし、ゾーンに入れてかつその時その人の状態が計測できていたとしても、サンプル数はどのくらいなのだろうと思う。一桁のサンプル数でアルゴリズムを作っても信頼性にかけるし、3桁のゾーンデータが集まっているとも到底思えない。

集中状態=瞑想状態はあるのかもしれない。

ただこれも、瞑想状態ってどんな状態?となるよね。絶対。

瞑想時には特殊な脳波が出ている(β並より高周波のΓ並が出るという話も聞いたことがあるが)と聞いたことがあるが、これも本当だろうか。怪しいものである。これも結局ゾーン状態と同様で、瞑想状態に「入っている」サンプル数が少ないため、瞑想状態ではなくその人(もしくは一部の人たち)の個人の感覚を表現したものに過ぎない可能性が高いように感じる。やっぱり難しそうだ。

 

 

では集中はどのように計測する?

 

◾️脳波だとすると、α波なの?β波なの?

基本的には、α波は安静時に、β波は覚醒時にでる脳波なので、意識を集中させたりなんらかの活動をした際にはβ波が出るとされている(かっこいい言い方をすると「β波が優位律動として出現する」なんて)。

ただα波が集中時に優位に出現するという説もぼろぼろあるようで、矛盾しているので少し調べてみると、どうやら音楽の聴講時に、音楽に集中するとα波が優位になるというのは論文でも検証されているみたい。

ただ音楽聴講時にもβ波が優位になるという検証もあり、個人差にも依存するような割と曖昧な内容なように思う。クリエイティブな仕事をしている時にもα波がでるという話もネット上では出ているけれど、論文は探せていない(基本、査読付き論文に書いていないことはあんまり信じない方がいいとの持論から判断してます)ので、あんまり信ぴょう性には乏しいのかなと思う。

一方で、よくある計算タスクや読書でタスクスコア(正答率とか理解度とか)と連動してβ波が出てくるというのは割とどの論文でも共通の内容のため、ここでいう集中状態と相関のある指標としてはやはりβ波を使用するのがいいように思う。

 

◾️脳波のβ波が表すのは集中?ストレス?

ただし、β波はストレスの指標でもあるので、ストレスの値を混ぜないようにしたい。

基本は、「脳は活性化しているがストレスは感じていない状態」がベストな集中状態と定義できるはず。

単独指標では、脳波の、あまり高周波過ぎないβ波(13Hz-16Hz程度のLow-β波と言われる周波数帯)が使用できるとされているけれど、脳波には当然個人差があり、かつ研究用でしっかりインピーダンスを精査した上で計測するのであればまだしも、簡易性を追求したウェアラブル脳波デバイスであれば、そもそもβ波をLow-Middle-Highで区切るのも個人的には不安。α波帯の低周波帯、β波帯の高周波帯の2種類くらいに区切るのがちょうどいいのではないかと考えている。3分割した研究論文もそれほど数があるわけではない。

個人的に現時点で一番効果的と感じているのは、脳波+なんらかの指標の組み合わせで、脳波で脳の活性化を抑えつつ、他の指標でストレス値を算出する方法で、脳が活性化しており、かつストレス値が低い状態であれば、理想の集中状態であると言えるはず。

この場合、脳波+心拍の同時計測が望ましいように思う。脳波で脳の活性化を計測しつつ、心拍で交感神経と副交感神経のバランスが良い状態、が集中状態と定義できるはず。かつ心拍のトータルパワーも高い値であれば、疲労も感じていない理想の状態と定義できると思う。

ただしコンテクストはUX設計である程度統制しなければならない。それは例えば、机に向かっていたとしても、夕飯のことを一生懸命考えていれば、それは生理指標では「集中している」と捉えられてしまう(脳は活性化しているのだから当然といえば当然なのだけれど)からである。なので例えば、e-learningなどのコンテンツ側での進捗管理などの、ある程度の統制が必要になる。

 

 

集中の可視化に市場価値はあるか

 

◾️可視化単体で戦える?

集中以外のリラックスやストレスの指標に関しても同じことが言えるのだけれど、可視化それ単体では市場価値は低いと思う。Fitbitなどのリストバンド型ウェアラブルバイスは「活動量の可視化」のみで市場を沸かせたけれど、あれは「ああいうことができるんだ!?」という新規性のインパクトで消費者を興奮させたのみで、あんまり継続性はなかったよね。今は生死指標の可視化に驚いてくれるユーザも少ないし、可視化+何かサービスがないといけないと思う。

とはいえ可視化ができなければそこからサービスを作ることができないので、とても重要な要素であることは間違いない。

なので結論としては、可視化だけでは市場価値はないけれど、価値あるサービスを作るためには必要な要素ということになると思います。

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◾️キーワードはパーソナライズ

基本は集中の可視化を活用したサービスというと、パーソナライズがキーワードになると思う。なんせ個人の集中力を個別に可視化するわけなので、その個人個人異なる傾向を生かしたサービスにしたい、というのは当然そうなると思う(一方でマーケティング目的で使用する場合には「100人中〇〇人のユーザが集中状態になりました」との全体最適の発想でものづくりをするけれど、それは今に始まったものではないので、今回置いておいて)。

個人的には、昨今の働き方改革の流れから、従業員のパフォーマンス向上に使用するのが良いように思う。結局働き方改革も、個人の意識改革を必要とするもので、個々人が自分のパフォーマンスをどのように向上させるかを考えなくては意味がない。自分がどうやったらパフォーマンスを向上させることができるのか、それを考えるためにもまずは、自分がどうやったら集中できるか、それを確認できる可視化の手法があるのは良いように思う。

 

 

今回はここまで。

次回は巷の生理指標活用ビジネスを紹介したい。

あとは”リラックス”や”ストレス”の指標の意味も改めて考えてみたい。