感情センシング&ビジネスデザイン

人の”こころ”を測るセンシング手法の紹介と、それらのビジネス活用の可能性について考えます。

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センシングデバイスはどんなUXであるべきか

マーケティングや研究利用ではなく、サービスとして使用する場合に、こころの状態を計測するサービスはどんなUXであるべきか、実体験も踏まえて考えてみる。

 

◾️そもそもそれ、アンケートでよくない?

クライアントから話を受ける際に、割とある話。特に脳波に関しては、あまり知見のない人にとってみれば「何でも分かる神の指標」のように認識されていることが多い。

結果、こんなシーンであんなシーンで計測するサービスを作りましょうなどという話になる。でも例えば「ユーザーの趣向性を取得する」ような機能を実装したい場合、確かに脳波でも近い値を取得することは可能なのだけれど、「それは直接アンケート調査で聞いてしまった方が早いのでは?」ということが往往にしてある。

実際そうで、脳波で趣向性を取得する場合にはそれこそ状況を結構しっかり作り込んで統制を取らなければいけないし、結果もファジーになりがち。アンケートの方が100倍簡単で、正確だ。なんせ好きか嫌いか直接聞いているからね。

ニューロマーケティングなどで、人の選択には無意識化での要素があり、それを脳波で捉えることができる、などという話がある。それは確かに間違いないと思うが、それこそ莫大な制作費をかける車などの製品やCMなどのマス広告のような単価が高く統計値として取得したい(広くマスにリーチする)ものであれば有効だろうけれど、多くの場合は、不確実性の高い購買選択を、判断できるほど脳波の趣向性診断は有用ではない。

使えば確かにできる、けれどもっと他に簡便な代替手段がある。こんなシーンは生体センシングではとても多いような気がする。

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◾️接触バイスvs非接触バイス

ユーザビリティを考えると、どんなシーンにおいても非接触の一本勝ち。接触バイスの方が優れているシーンは皆無であるはず。ただし、取得できる指標の数、計測精度、コストは圧倒的に接触バイスの方が優れている。

接触の場合、取得できる指標は限られている。脳波・皮膚電位は取得できず、取得可能なのは、心拍・音声・体温・表情・体動あたりと思われる。音声・表情はそもそも接触で取得する指標ではなく、体温もコロナ影響もあり今では非接触で取得するのがもはやデフォルトになっている(しかも医療用とで使用するため精度高め)。

でも心拍・体動に関しては非接触型の計測精度は接触型に遠く及ばない。体動は見た目で分かるほどの非常に大きい信号のため何とかなるかもしれないけれど、心拍はまだ非接触では実用に耐えうるものは少ないように思う。

つまり脳波・皮膚電位・心拍が非接触では使用できないということなので、結論としては、非接触であれば当然嬉しいのだが、こころを測る技術としてはやはりまだ接触バイスに頼らざるを得ないということになる。

「なるべく動かない」などのUX設計をした上での、ドップラーセンサー等を利用した心拍の非接触計測には期待したい。また心弾動図を利用したお尻や背中からの心拍取得などの、非接触ではないもののUX上皮接触に感じるようなセンシング技術には近い将来での実現性は大きいように感じる。

 

 

◾️どれほどの精度が求められる?

例えば計測前にインピーダンスのチェックをしないウェアラブルバイスよりも、研究用にしっかり準備をしてから計測するデバイス(アルコールで計測箇所を拭ったり、ジェルをすり込んだり)の方が、計測における精度はやっぱり高い。

でも実際にサービスにすることを想定すると、精度の高い計測結果が求められるシーンはそれほど多くないように感じる。当然、精度が高いに越したことはないのだけれど、そのために装着準備に時間をかけるようなサービス設計を組み込む必要はないという意味で。

また、大まかな集中力(脳全体が活性か不活性か程度)や感情(ポジティブかネガティブか、つまりストレスの有無)であれば、それほどの計測準備をしなくとも十分に取れる可能性は高く、実際にそれほどの精度が必要ない場合もあると思う。

ただ個人的にどうだろうと思うのは、例えば「感情を48種類に分割できる」などの”細かな違いを見分ける必要のある計測結果”と「うつ病の診断示唆」などの”確からしさが求められる計測結果”をウェアラブルバイスで算出できるというサービス。これらは精度が必要になるので、下準備も含めてしっかりとしたUX設計を行う必要がある。

 

 

◾️接触バイスは従来の行動に溶け込ませるべき!

・”測定する目的で”デバイスは装着させない

AppleWatchは従来の「時計を身につける」という行動を変えさせることなく生理指標を計測できているし、ヒアラブルデバイスは従来装着しているイヤホンをすげ替えれば行動変容なしに計測できる。JINSMEMEは眼鏡をすげ替えればいい。

このように、従来の行動を変えない、”測定するために”デバイスを装着させないUX設計は必要となる。

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・装着のメリットの提示は、なかなか難しい!

一時期流行した、Fitbitに代表される活動量計測用のリストバンド型デバイスは、「もともと装着する必要のなかったもの」を新たに装着するような行動変容を求めるものだった。

その場合には装着の大きなメリットがなくてはならず、活動量を取得できるというメリットでは、一部の健康オタクのようなユーザにしか受け入れられず、世間一般に広く普及することはなかった(とはいえ市場に新しい価値をもたらしたのは事実で、個人的にはFitbitはチャレンジングでとても素晴らしい動きだったと思う)。

一方で行動変容を求めないものであれば、与えるメリットが少なくても問題ない。そもそもやっている行為だった訳なので。

センシングデバイスでもたらすメリットはユーザ情報の可視化それ自体とそのデータを活用したサービス提供(趣味趣向に基づくリコメンドや、活動量に基づくトレーニング提案・ライフスタイル提案など)が一般的と思うけれど、それにはデータのある程度の蓄積が必要で、最初から感動を与えるようなサービスになる可能性は少なく、一定期間は”我慢して”やり続けてもらう必要がある。

そのため、初期の段階でユーザにメリットをあまり享受しなくても継続してもらいやすいUX設計にするのは割と重要なことと個人的には考えている。

 

・どんな接触バイスに未来がありそうか

脳波であれば、VRスコープ・帽子にうまく電極を潜り込ませている例が見て取れる。CPUを搭載する必要があるため、数10グラム重くなることは考慮しなくてはならない。帽子だとすると割ときつい印象がある。

①相性バッチリ、VRスコープ

VRスコープとの相性はよく(そもそもVRスコープは顔に接する形であんなに大きなデバイスを装着でき、かつ目・耳の情報を制限できるという点で全ての生理指標計測と相性が良いのだが)、前頭葉を中心にがっつり電極を配置することができ、かつ取得情報を映像に反映することも容易にできる。ただVRスコープを装着するシーンはまだ非常に限定的なので、そこは留意する必要あり。

今後の普及を考慮しても、例えば仕事中や学習時にある程度重めのデバイスを装着しながら行うシーンはまだ少し先の未来であるように思う。

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②眼鏡型デバイスは鬼門!

個人的な経験からの話になるけれど、眼鏡は本当に繊細なデバイスで難しい。数グラムの重さの増加で途端に普段使いができなくなるので、普段使いの眼鏡型ウェアラブルバイス普及させるのは至難の技。

一方で、普段使いをしない眼鏡にする場合(例えば特定の場所に来た時だけ提供するような)、個人に合わせて度を調整することが出来ないため、伊達眼鏡のような形になる。そうしたらそうしたで、眼鏡を普段からしている人は装着できない(自分の眼鏡オン眼鏡デバイスにするよ必要があるため)し、眼鏡を普段からしていない人には邪魔でしかないデバイスになる。

まさに八方塞がりで、個人的にはひっそりと眼鏡型デバイスは鬼門と結論づけてます。

③リストバンド型はサービス限定で花開く!

リストバンド型はUX設計によっては全く問題なく浸透させることができると思う。

例えばスポーツジムでロッカーの鍵をリストバンドにして、ジム使用中には装着するのは一般的だと思うけれど、これをウェアラブルにするのは容易い。

AppleWatchのように時計にするのはコンシューマに広く普及させるための一つの優れた解であるように思うけれど、シーンをある程度限定すれば、リストバンド型はまだまだ普及の可能性があるように思う。

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④加速度による心拍計測デバイスにはポテンシャルあり!

時計型ウェアラブルバイスのようにあまりサービスシーンを限定することなく広くコンシューマに普及しそうな次のデバイスとして、加速度センサーによる心拍計測デバイスはこの座に君臨できそうなポテンシャルがあるように思う。

椅子にしくタイプで脈派がある程度正確に取得でき、自律神経の計測→ストレス・リラックスの判断ができるようになれば、オフィスでもプライベートでも様々なサービスに利用できると思う。

現存のものはまだ動きのノイズに弱く、心拍数の取得はできるが脈派の取得はできない精度のものが多い。しかしながらこの部分は、例えばハード側はセンサーを包む緩衝材などの工夫、ソフト側は学習による動作ノイズの分離と、概ね改善の方向性は見えており、近い将来実使用に耐え売るものとして実装される可能性は極めて高いと感じている。

 

 

今回はここまで。

次回は集中とは何か、感情とは何か、などについて考えてみたいです。

またビジネス実装の可能性に関しても考えてみたい。