感情センシング&ビジネスデザイン

人の”こころ”を測るセンシング手法の紹介と、それらのビジネス活用の可能性について考えます。

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そもそも心拍とは?

こころを測る技術の代表格「心拍」を柔らかく紐解きます!

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◾️心拍とは何か

シンプルに心臓の拍動ですね。健康診断の時に計測すると思います。あれは1分間の安静にしている状態での心拍数(安静時心拍数)ですね。最大心拍数は年齢が高くなるほど下がりますね。心臓の拍動なので、運動に大きな影響を受けます。

外科手術のバイタルセンサーのように電気的に計測したり、血液中のヘモグロビンを使用して光で測ったり、拍動の振動を利用して加速度で測ったりと、心臓の動きは大きくてわかりやすいので様々な方法で計測可能です。

運動はとっても簡単かつ正確に取得できるのですが、反面、他の情報(ストレスやリラックスなど)を推定する場合には、この運動の影響をどう取り除くかが難しいです。PC入力やメモ程度の動きでも影響を大きく受けちゃいます。運動の推定がしやすい一方で、運動に大きな影響を受けてしまう指標ですね。

 

◾️心拍の計測方法

シンプルな指標なので計測方法はたくさんあります。指で手首の脈を抑えるだけでも計測できますしね(脈拍数≒心拍数です。同じではない時もありますが、正常時は同じものなので≒で)。そのぶん精度と拘束条件は脳波よりも手法によって差がありますね。

 

 

・血圧計

健康診断でよく見るやつですね。あの測り方は”オシロメトリック法”というそうです。腕を圧迫(加圧)して、そのあと減圧しますよね。加圧した時に血液が止まり、減圧し始めて血液が流れ始めると、脈拍が走り振動が発生します。その減圧開始時期の振動を最高血圧とします。そして減圧を続け血管が十分開かれた状態になると、脈拍による振動も落ち着いてきます。その落ち着いてきた時の血圧が、最低血圧ですね。そうでない時もありますが、正常時は基本、血圧≒心拍数です。

 

・心電図(ECG)

よく外科手術で見るやつです。心臓近くの胸部に電極パッチを貼り付け、心臓に伝わる電気信号を計測する方法です(詳しくは心房興奮や心室興奮など興奮する部位によって電位が異なるなどなどありますが、難しいですし割愛します)。周期的な波形で、一番大きなピーク(バイタルモニターでピンッとスパイク状に出現するあの波形です)をR波というのですが、このピークが心拍の1拍にあたります。心拍変動を見る際には、このピーク間の間隔の乱れを見たりしますね。RRI(R-R間隔)もしくはピークであることからPPI(Peak to Peak間隔)と呼ばれる指標ですね。医療用に使用する場合には、200Hz以上(5msより短い間隔で)のサンプリング周波数で記録する必要ありとのこと、脳波よりちょっと緩いくらいですが、それでもデータ量多いですね。そして当然のように安静時計測がマストです。医療用途や研究用途など、しっかりと高い計測精度を活かせるように、安静シーンでの使用が基本かなと思います。

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・画像処理

主に顔画像からですね。特に鼻周りの画像がわかりやすいと聞きます。血液の中のヘモグロビンの、緑色の光を吸収しやすい性質を利用して、顔表面の皮膚の色変化を計測して脈拍を捉える方法です。平たく言うと、脈がドックンとなる一瞬には顔色がかすかに良くなり(赤っぽくなり)、それ以外の時には悪くなる(緑っぽく)なるのを捉えているイメージです。画像情報を細かく(1秒間に20回程度とされているようです)で取得する必要があり、データが重い、動きに極端に弱い(非常に早いシャッター速度で撮影しながら、前後比較する必要があるため、動いちゃまずい状態です)、理由から、個人的にはまだあまり実用的ではない印象です。鏡での使用とか、UX結構考えないと使用は厳しいのかなと。

 

・光電脈派(PPG)

ドクンドクンの血液の動きで変化する血管の容量(太さ)を、光で検知する方法です。手首や指などから測りますね。血液中のヘモグロビンは緑色の波長の光を吸収しやすいので、ドクン、ドクンで血液の量が多く流れる、つまり血管が太くなると、吸収される光の量が多くなり、それで脈拍がわかります。皮膚に触れる形で、LEDの発光部とフォトトランジスタ等の受光部を配置して、発光部→皮膚→血管→皮膚→受光部と、反射してきた光の量の変化を計測して脈拍を測ります。AppleWatchとかFitbitとか、リストバンド系のウェアラブルバイスはだいたいこの計測方法ですね。バンドの裏側に緑色に光る部分があるはずです。

 

・心弾動図

心臓がドックンと脈動すると、当然振動が生じますね。その振動を加速度センサーで捉えて、脈拍を計測する方法です。BCGとも言われます。なんとなく想像できるような気がしますが、振動といっても、とてつもなく小さいので、高精度な加速度センサーと、ノイズ(人間ですから、筋肉など結構色々な振動がデフォルトで生じてますよね)を除去するアルゴリズムが必要です。心臓近くでの計測がもちろん効果的でしょうが、それだと心電図の方が良いので、座っている状態でお尻から、ベットにつけて背中から、などと生活シーンに溶け込むような形でのセンシングの形態が多いイメージです。椅子などに仕込むと、非接触センサーのように(本当はお尻に接触しているのですが)使用できるため、UXは非常に良きの印象です。ただ本当に他の振動に弱いので、例えば車の移動やエンジンの振動や、人のがキーボードを打つ時の身体振動など、揺れてる?程度のものでも結構厳しいようです。こちらもUX設計はある程度考えないとです。座禅などの動かないサービスでの利用では良きと思います。

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ドップラー効果(音波・電波など)

電波や音波を発信して、その反射をみて脈拍を測る技術ですね。イルカやコウモリが障害物を捉えたりするときに使うやつです。心弾動図と同様で拍動時の小さな動きを取得するようです。同じく動きに弱いです(非接触なぶんこちらの方がより動きに弱いように感じます)。貧乏ゆすり等する人は全く計測できないです。人の動きの取得用に人感センサーとして利用されてきた技術でしたが、近年精度が向上し、睡眠や呼吸、そして心拍まで取得できるようになってきているとのこと。脳波や皮膚電位など、こころの状態を推定できる可能性のある生理指標で唯一非接触計測ができそうな指標が心拍だと個人的には思っております。なのでこのドップラーで心拍を捉える方法は、夢があり大好きです。ノイズ除去アルゴリスムの発展はもちろん必要なのですが、入り口となるハード(センサー)の性能が悪く元データが汚ければどうしようもないので、ハードとソフト両輪での改善が必要ですね。

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◾️心拍から何がわかる?

・活動量

心拍数がわかれば活動量(運動量)が推定できます。

運動すれば心拍が上がるのはなんとなく分かりますよね。なので心拍数から活動量は算出できます。拍数がわかればいいのでそれほどの精度も必要なく(手で手首を触ると脈が測れるくらいなので、割と簡単そうですよね)、リストバンド型のウェアラブルバイスは大抵この機能を持っていますね。

・ストレス/リラックス

心拍の波形を周波数分析することで、ストレスとリラックスが推定できます。

心拍の波形の周期(”心電図”の項目で説明したRRIをイメージしていただければ)は運動などで心臓の動きが早くなると短く、心臓の動きが遅くなると長くなります。心臓のドクンと連動して信号のピークが出るので、そんな感じしますね。ですが実は、運動せずじっとしていても心拍の波形は一定にはならず、基本的に揺らいでいます(例外として薬などで神経機能を抑えると、揺らがなくなります)。これを心拍変動(HRV)と言います。

この変動の原因となっているのが、呼吸周期(3秒から4秒程度の周期、0.15Hz〜0.40Hzの周波数)の刺激信号と、血圧変動周期(約10秒周期、0.05Hz〜0.15Hzの周波数)の刺激信号です。そしてこの2種類の周期信号を心臓に伝達させるのが、交感神経と副交感神経です。

副交感神経は呼吸周期と血圧変動周期の両方の信号を心臓に伝えることができるのですが、交感神経は血圧変動周期の信号しか伝えることができません。その為、交感神経が抑制で副交感神経が緊張の場合、呼吸変動(高周波)も血圧変動(低周波)心臓に伝わり、心拍変動に反映されますが、交感神経が緊張で副交感神経が抑制の場合は、呼吸変動(高周波)は伝達されず、血圧変動信号(低周波)だけが伝達されます。なので、交感神経優位の場合と副交感神経優位の場合を比較すると、想定的に、交感神経優位の場合には低周波成分(LFと呼ばれます。0.05Hzから0.15Hzまでの周波数帯)が、副交感神経優位の場合には高周波成分(こちらはHFです。0.15Hzから0.40Hzまでの周波数帯です)がそれぞれ大きくなるということになります。

このことから、心拍信号をフーリエ変換(自己回帰分析モデルと呼ばれる方法でもできるらしいですが私は分かりません)して周波数分析し、0.15Hz〜0.40Hzの周波数帯と、0.05Hzから0.15Hz帯のピークのどちらが相対的に大きいかを比較すれば(あくまで「想定的に」です。基本人体計測の際には低周波成分の方が大きいので、絶対値比較ではいつも低周波成分が大きくなってしまいます)、交感神経副交感神経のどちらが優位かを特定することができ、人のストレス・リラックスを推定することができます。

ここで交感神経優位=ストレス状態、副交感神経優位=リラックス状態とされているのですが、「ならば副交感神経が絶対正義!」というわけではなく、あくまでバランスです。どちらかが優位すぎてもあまり良い状態ではないということです。

 

・トータルパワー

心拍波形から疲労度を推定することもできます。

トータルパワーは、上述の低周波成分(LF)と高周波成分(HF)さらにLFよりももっと低周波帯の成分(VLFと呼ばれてます。0.04Hz以下の周波数帯です)を合わせた、0.0〜0.4Hz帯のパワースペクトルの合計値です。分かりやすいネーミングですね。このトータルパワーの値が低い場合には疲労気味、となります。パワーが少ないと疲労、またしても分かりやすいですね。この値は加齢に伴い減少します。そのため、世間一般的にみて疲労気味かそうでないかを判断するためには、非計測者の年齢を入力させるUXがないとできないことになります。

 

 

 

ボリュームが多くなりましたが、今回はここまで。

次は心拍を測る巷のデバイスを紹介したいです。